2017年9月15日金曜日

第二話 S-SAS発足の話

今回は、S-SASが誕生したいきさつをおはなしします。
ハッピーな誕生秘話とはいえませんが、S-SASを語るうえでとくに重要なことですので、あえてとりあげました。

ときは6年前の5月中旬にさかのぼります。
そのころ亜場高校といえば、ちょっとかわった教育方針がおおいに話題になっていました。
「現場でいかせる若い才能をはぐくむ」と銘打って、産業界に速攻でおくりこめる人材の育成にのりだしていたのです。

もちろん、ふつうの進学校として大学受験対策も行っていましたが、やはり設備管理科、マシンセィフティー科、ビジネスマネジメント科、ビジネスリーダー養成科、ファッションリーダー科など、聞きなれない学科に、周囲の人々は興味津々でした。
ときおり、マスコミが取材に訪れたり、新聞に記事が掲載されたり、とにかく注目されていました。

そして、自由な校風で生徒ものびのびとしており、毎月開催される亜場高校の対外イベントも非常に個性あふれる楽しいものでした。
その評判は、じょじょに口コミでひろがり、開校3年後にはたいへんな数の訪問者が毎月おしよせるようになっていました。

「さあ、みなさん!寄っていってください!おしゃれなペンダントをつくりませんか?」
マシンセイフティー科の男子学生が、廊下で人に声をかけています。
木版をまるく切りとり、それを訪問者たちが色をつけてアクセサリーにする人気のブースでした。

その男子生徒のよびこみに何人かの小学生らしき女の子たちが気づきました。
ねえ、いってみようよ」
「私ね、このまえもかわいいペンダントつくったんだよ」
言いながら、工作機械室にはいっていきます。

なんとその中には、当時10才だった小学生の好菜がいました。
好菜には真理(まり)という姉がおり、亜場高校のマシンセイフティー科の2年生でした。
この日は、機械のデモンストレーションを行うということで、好菜たちを招待してくれていたのです。

部屋のなかにはすでに真理と観客が数人いて、実演をまちうけています。
好菜たちが入っていくと、背たけほどの透明なついたての向こうの男子学生が、20cm角の木版を手にしています。

「あ、尊(たかし)くんだ・・・。」
ついたての向こうにいるのは、真理の同級生であり、幼馴染でもある和渡(わと)尊でした。
どうやら、次のデモンストレーションは彼が行うようです。

「それでははじめましょうか。
まず、このボール盤という機械にホールソーという歯をつけて木版をまるくくりぬきます。
そのあと、みなさん好きな色をぬって、お持ちかえりしてください」
尊は、何度かやっているらしく、てなれたようすでボール盤の電源を入れました。

ウィーンと音がして、ホールソーを木版にあてます。
少しすると、木屑が出はじめました。
「よし、もうすぐだ」

そのときです!
「あっ!!」
「きゃあ!!」

まるくくりぬいたとたん、のこりの木版が見ていた人々のほうにふっとんでいきました。
木版はゴーン!と大きな音をたててついたてにあたり床におちました。
人には当たらず、おおごとにはならなかったのですが、ついたてが割れてしまい小学生の一人のうえにたおれていきました。

顔面蒼白で立ちつくす尊。

するとまたしても悲劇が!

尊のはめていた軍手が、ホールソーの歯にあたり、手が持っていかれます。
そう、ショックのあまり尊はあやまって歯にさわってしまったのです。

「あぶない、尊!軍手はずして!!!」
真理が大声をあげます。
「うわっ!やばっ!」
すんでのところで、尊は軍手を外すことができて、こちらも大事にはいたりませんでした。

じつは、好菜、このけがした女の子のとなりに立っていたのでした。
そして、さらに好菜のとなりに真理がいました。

好菜も、目の前でおきた事故に、ただびっくりして言葉なくたちつくすばかりでした。

女の子は、すぐさま医務室にはこばれ、手当てをうけました。
養護教諭である羽田伊津子(はたいつこ)がため息まじりに言います。

「かすり傷ができてしまったわね。
でも、これはラッキーなのよ。
一歩まちがえば、大きなけがにつながっていたかもしれなかったんだから」

最近ね、
と羽田はつづけます。
「重くはないんだけど、対外イベントの弊害というか、ケガしただの、あたまが痛いだの、気分が落ちこむなんていう生徒が増えているのよね。
みんなそれぞれ個別に頑張っているけど、限界かも・・・。
だれかが全体を見ていて、まとめていかないと

その後、亜場高校ではこの問題が大きく取りあげられました。
何人かの先生は、対外イベントを中止することを提案しました。

しかし、当時の亜場高校校長である布礼伊治也(ふれいちや)は、
「対外イベントを中止しても、根本的な解決にはならない。
ここは、生徒たちの自主性にまかせ、彼らに解決法をかんがえてもらおう」
といいました。

布礼校長は、工作機械室にいた和渡尊、原須真理、そして廊下で呼びこみをしていた角立宗作(つのだてそうさく)にはなしをきいていました。

「和渡くん、今回はたいへんこわい思いをしただろう?」
「はい。今でも思いだすとふるえます」
「今回の件で、なにか思うところはあるかね?
「はい、反省すべき点がたくさんあります」

そして、尊は、木版をクランプで固定しなかったこと、自分がなれていると油断したことを校長に話しました。

すると、真理が
「尊・・・いえ、和渡くん、もう一つ重大なことがあるの。
あのとき、和渡くんは軍手をはめていたわね。
ドリル類を使うときには、軍手ははめてはいけないのよ」

「えっ!そうだったのか、知らなかった・・・ではすまされないな」
尊は、しゅんと肩を落としてしまいました。

ふたたび、真理。
「でも、校長先生、和渡くんをかばうわけではないのですが、ドリル類使用の際は軍手を使用しないこと、というのはいままで授業で一回言われたきりです。
あとは実習でもとくに繰り返して教えてもらっていないので、忘れている人や重大さをわかっていない人はおおぜいいると思います」
まあ、2年だから実習もまだそれほど多くないんですけどね、とつけくわえた。

「なるほど・・・。
ひんぱんに対外イベントがあるから、機械を使ってお客さんに対応しなければならない。
でも、機械使用の実習をする前だから、十分な知識がないというわけですね。
これは、学校側にも反省すべき点がありますね」

「あの・・・」
今まで、ひとこともしゃべらず部屋のすみにいた角立宗作が小さな声で言います。
「あの透明なついたて、昨夜まではちがうものだったんです」

布礼校長は宗作のほうにからだをむけます。
「角立くん、どういうことかな?」

「前の日の夜、オレが見たときには、あのついたて、塩ビじゃなくて、ちゃんとポリカのやつだったんだ」

「え?」
真理はおどろきます。
「それ、ほんとうなの?」
「ほんとうだよ。オレ、ちゃんとさわってみたし、押して確認したから」

ここで、解説しましょう。
宗作が言っている、塩ビとは塩化ビニルの、ポリカとはポリカーボネート、つまりどちらも透明な素材をさしています。
通常、物があたるのを防ぐには、塩化ビニルではなく粘度の高いポリカーボネートを使用します。
塩ビだと今回のようにわれてしまう可能性があるからです。
同じ厚さであればポリカは塩ビに比べると変形量が大きいため、宗作のように押してみるとその違いがわかります。

「いったい、だれが?」
「それも調査しないといけませんね」
布礼校長は、少し深刻に言いました。

そのとき、3人の担任である江戸都留満(えどつるみ)が校長室に入ってきました。
「布礼校長、今、工作機械室の責任者に話を聞いてきたのですが、ここ最近ホールソーの歯の点検をしていなかったようなのです。
5月の連休があって、3週間点検がない状態でした」
「そうですか」

「でも、オレも使うまえにきちんと歯の状態を調べなかったから・・・」
と、ますますうなだれる尊・・・。

「さて、どうしましょう。
みなさん、このようなことが二度とおきないためにはどうしたらいいとおもいますか?」
布礼校長は3人にたずねます。

真理が、顔をあげてはっきりと答えます。
「生徒たちで、自主委員会を作って、安全を守るべきです。
今回のことは、いろいろな原因があっておきています。
誰かが全体的にみまわりをしないといけないと、ここ数日かんがえていました」

「ふうむ、そうですね。
では、臨時の生徒総会を開いて、それを提案してみてはいかがでしょうか」

というわけで、その数日後、生徒総会がひらかれ、満場一致でS-SASの発足にいたりました。
個々に訪問者対応をしている現状に、みんな限界を感じていたのです。

初代センターには、原須真理がえらばれました。
和渡尊、角立宗作もメンバーになったのはいうまでもありません。
学校のカリキュラムの問題もあり、生徒たちと連絡をはかるために江戸が顧問におちつきました。

そのころの好菜といえば、尊、宗作がたびたび自宅に訪れるのを興味深く見守っていました。
3人とも、どうすれば生徒たち、訪問者たちが安全に行動できるかについて日々はなしあっていたからです。

好菜は、漠然と
(お姉ちゃんってすごい!・・・かっこいい!)
と思っていました。


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